反物 くる くる 9 湯のし?湯通し?どっちやねんっ!?
反物 くるくる でっちくん。 今日は先輩くんにおつかいを頼まれました。 外はぽかぽか良い天気。
おこられてばかりの店をはなれて 羽根を伸ばしたゴキゲンのでっちくん。 すっかりちんたら行楽気分です。
ぶらぶら寄り道しながら やっと古ぼけた一軒のお店の前に着きました。「しみぬき しっかい」と小さな看板。
がらがらと格子戸をあけると ぷ~んと古い畳の饐(す)えた匂い。「こんにちは~」 ・・・ 誰も答えません。
「こんにちはー!」 ・・・ やはり応答なし。 「こんにちはー!だれもいないんですかぁ~?」 と でっちくん。
すると、がたがたと奥の障子が開いて よぼよぼの上半身ランニングシャツのおじいさんが 茶碗と箸片手に
のそのそと顔を出しました。「 ほええぇ・・・ 」 「 あ、あの~ 」「 はぁはわゎゎ・・・ 」「 お、お仕事を・・・ 」
「 わしゃ~耳が遠いんでなぁ~ ほえぇ・・・ 」 ゾンビのように這い出てきた老人に思わずのけぞるでっちくん。
「 これ、お願いしますっ!」 気おされたでっちくん、玄関口に反物2反置いて あわてて立ち去ろうとすると ・・・
「 小僧はんっ 待ちなはれ・・・ 」 「 は、はい~っ!! 」
よぼよぼシッカイ屋爺さんのうって変わった野太い声に でっちくんのチキンハートはどっきんどっきん破裂寸前です。
反物、両の手につかんでジロリひとにらみ。 「 湯のし、湯通し どっちやねんっ? 」
しまった~ でっちくん さっき寄り道して角のパン屋でジュースを飲んだときに うっかり伝票を失くしたようです!
「 あ、あのぅ そのぅ ・・・ 」 しどろもどろのでっちくん。「 はぁ~? わしゃ~ 耳が遠いんやゆうとるやろ~? 」
窮したでっちくん 逆ギレヤケッパチ。「 もぉ~ 湯のしだって湯通しだって どっちだっていいじゃないですか?」
「 どっちでも ええことないでっ! 」 「 ひえぇぇ~ 」
右手の小紋 左の紬を掲げて シッカイ屋爺さんは噛んで含めるように言いました。
「 染めもんは湯のし 織りもんは湯通し よう覚えときなはれや ・・・ 」
そうなんです。後染めの縮緬や綸子または総絞りは 蒸気で皺を伸ばし幅を出して光沢発色をよくする『湯のし』、
先染めの紬は機(はた)に乗せるとき糸をかりかりに固めた糊を落とすため お湯につけてよく洗って乾かします
これが『湯通し』。天気が悪いと湯通しは時間がかかります。湯のし湯通しは工程が異なる似て非なるものなんです。
腰を抜かしたでっちくんを尻目に よぼよぼシッカイ屋爺さんはのそのそと障子の向こうに消えてゆきました ・・・
「 ほえぇ・・・ ほなまいど・・・ 」 でっちくんが湯のし湯通しを間違えることは二度とないでしょう。
反物 くる くる でっちくん 呉服の道は まだまだ 奥深いですよぉ~
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